
「補聴器は、必要なシーンでだけ使ってもいい?」という質問はよく耳にします。
人としゃべるときだけ、会議の時だけ、テレビを見るときだけ使って、それ以外の時はしまっておく。
このような使い方はOKなのでしょうか?
結論から言うと、「必要な時だけ使うのは、可能は可能だけど、おすすめしない。常に補聴器を使うのが一番いい」のです。
それには明確な理由があります。
どうして常に補聴器を使うべきなのか、しっかりとご説明します。
目次
1 どうして必要な時だけ使いたいのか考えてみましょう
まず考えてみたいのですが、あなたが補聴器を必要な時だけ使いたい、と考えるのはなぜですか?
- 普段は使わなくても十分に聞こえているから?
- わずらわしいからなるべく使いたくない?
- 使っていることをなるべく知られたくないから?
どの理由ももっともですよね。
その中でもきっと1つ目の理由、「使わなくても十分に聞こえているから」が大きいのではないでしょうか?
特に、難聴度合いが軽い「軽度難聴」の人は、このように考えることが多いようです。
普段は十分に聞こえているけど、特にしっかり聞き取る必要がある時には、補聴器で補いたい。
例えば、会議の時、外出時、病院で説明を聞く時、電話をする時…、このような時だけ補聴器を使いたい。
確かにそうですよね。
必要な時にだけ補聴器をつければいい、と考えるのは、当たり前のことです。
実際、このような時だけ補聴器を使っている補聴器ユーザーは多くいると思われます。
「必要な時だけ補聴器を使う」のは、結論から言いますと、「可能だけど、おすすめしない」補聴器の使い方です。
絶対にNG!というわけではないのです、実際にそのように使っている人もいます。
ですが、できれば「いつも補聴器をつける」使いかたをすることをおすすめします。
どうしてでしょうか?
それを解説する前に、まずは「聞こえ方のしくみ」について詳しく説明したいと思います。
2 「聞こえ方のしくみ」:音を聞くのは耳ではなく「脳」
音を聞くのは耳!
私たちは当たり前にそう考えていますが、実は耳は「音を集める」「音を伝える」ための器官です。
実際に音を聞く、つまり「分析・理解」しているのは「脳」です。
耳が音を集め、脳に伝え、その情報を脳が分析し、初めて「音」として理解できます。
脳は働き者で、毎日絶え間なく聞こえてくる音を、絶え間なく分析し続けています。
寝ている時にも脳は音を分析しています。寝ていてもアラーム音や警報音が聞こえるのは、脳が働いているおかげですね。
では、「難聴」になるとどうなるのでしょうか?
年を取ると始まる難聴を考えていきましょう。
年を取ってから始まる難聴、加齢性難聴は、耳の中にある「音を感じる細胞」が衰えるために起こります。
「耳が音を集める」ことは、これまでと同様に行っても、「耳が音を伝える」ところに問題が起こるので、「脳に伝わる音の情報」が少なくなっていくのです。
すると、「脳が音を分析する」頻度が減っていきます。音が伝わってこないのですから、当たり前ですよね。
脳は、音を分析することが少なくなっていき、静かな環境に慣れていきます。
こうなると脳は、「もう音は分析しなくてもいいのかな」と思って、「音を分析する能力」がだんだん下がっていきます。
この状態で補聴器を使い始めると、どうなるのでしょうか?
補聴器を使い始めると、いきなり音が脳に届くようになります。
静かな環境に慣れて休んでいた脳が、いきなりまた音の分析を始めるようになるのです。
すると脳は、「うるさい!」と感じ、拒否反応を示します。
また、音を分析する能力が下がっているので、せっかく音が伝わってきても、それを分析することができず、「音は聞こえるけど、なんて言っているのか分からない」ということになります。
この状態を改善するためには、脳にもう一度「世界は音で満ちあふれているものだ」という事を思い出してもらい、「音を分析する能力」を取り戻してもらう必要があります。
そのためにはどうすればいいのでしょうか?
カンタンです、補聴器を装用して、補聴器からの音を聞き続ければいいのです!
つまり、脳に常時音が届くようにするのです。
なるべく長い時間補聴器を使うことで、脳はだんだん「音の分析能力」を取り戻していきます。
「音の分析能力」を再トレーニングする、という事ですね。
もちろん、無理のない範囲で補聴器を使うことになります。
補聴器から出る音を、始めは少し小さめにしておき、慣れるにしたがって少しずつ大きくしていきます。
補聴器を使う時間も、最初のころは数時間にとどめ、少しずつ長くしていきます。
その人によって、聴力や補聴器への慣れ方が違うので、音の設定や期間はまちまちですが、多くの補聴器初心者の人がこのようなステップをたどります。
3~6か月間で補聴器に慣れると言われています。
3 「必要な時だけ補聴器を使う」のは「可能だけどおすすめしない」
さて、寄り道で聞こえ方の事を考えてみました。
ここから「必要な時だけ補聴器を使う」ことについて考えていきましょう。
結論からお伝えすると、「必要な時だけ補聴器を使う」のはもちろん可能ですが、そのような使いかたよりも、より長い時間補聴器を使うことをぜひおすすめしたいと思います。
可能な理由:
補聴器は気楽につけたり外したりできるものです。
必要になったら耳につけ、そうでなくなったら外す、ということはもちろん可能です。
補聴器が必要になるシーンは人によって違いますね。
会社で会議の時、お友達とレストランでおしゃべりをする時、孫が遊びに来た時…。
おそらく「しっかりと言葉を聞き取りたい」時が多いのではないでしょうか。
そのような場面で補聴器をつけて、聞き漏らさないようにして会話に参加するのは、賢明な判断です。
ただし、実は「可能」よりも「おすすめしない」の方が大きいのです。
その理由は次の通りです。
おすすめしない理由・その1:補聴器は「慣れ」が必要だから
補聴器に慣れるのには時間がかかります。
先ほどの「寄り道」で説明したように、音を理解するためには、「脳の分析能力」を再トレーニングする必要があります。
そのためには、普段から補聴器で音を脳に届け、少しずつトレーニングする必要があります。
ですが、補聴器を使う時間が短いと、脳のトレーニングが充分にできません。
その状態で、いざしっかりと言葉を理解したい場面でいきなり補聴器を使うと、「補聴器から音は聞こえるけど、何を言っているのか分からない」ということになるのです。
そして、「必要な時だけ補聴器を使う」ことが続くと、いつまでたっても補聴器に慣れることができない事にもなりかねません。
おすすめしない理由・その2:本当に補聴器なしで聞こえている?
「普段は十分聞こえているから、どうしても必要な時だけ補聴器を使う」という前提ですが、本当でしょうか?
この「普段は十分聞こえている」という本人の感覚は、多くの場合「実は十分には聞こえていない」のです。
聞こえている音だけを「聞こえている」と感じて、「聞こえていない音」に気づいていない可能性があります。
家族は普段から大きな声で話してくれているかもしれません。
家族の会話を知らないうちに聞き逃しているかもしれません。
町中を歩く時に、車や自転車の走行音を聞き逃して、実は危険の中にいるのかもしれません。
鳥の声や風の音が最近聞こえていないことに、気づいていないかもしれません。
これらはどれも重要なことで、無視していいことではありません。
聞こえ方が変化するときは、音全体が聞こえなくなるのではなく、ある特定の音だけが聞こえづらくなります。
まだ聞こえている部分があるので、「自分はまだ十分に聞こえる」と感じてしまうのです。
主観的な感覚だけでなく、勇気を出して家族や友人に自分の聞こえ方を尋ねてみましょう。
そして、最も客観的な判断として、耳鼻咽喉科で聴力検査を受けることもお勧めします。
細かなデータをもとに、医師があなたの聞こえ方の状態を診断し、補聴器をどの程度の頻度で使う必要があるかを教えてくれるでしょう。
4 「いつも補聴器を使う」ことのメリットは
必要な時だけ、ではなく、常時補聴器を装用することには、メリットがいくつもあります。
利点その1:補聴器に早く慣れることができる
ご説明しているように、補聴器には慣れが必要で、慣れるためには補聴器を使う必要があります。
長い時間補聴器を装用すれば、それだけ早く慣れることができ、補聴器を使いこなすことができます。
利点その2:聞き逃しが少なくなる
「聞く必要がある音」は、予告なく発生します。いつでも補聴器をつけていれば、その音も逃すことなく聞くことができます。
利点その3:補聴器の紛失の可能性が減る
補聴器のつけ外しを頻繁にすると、その分補聴器を紛失する可能性が高くなります。
特に外出先は危険です。つけ外しの時に落としてしまったり、外した補聴器がポケットの中で紛失してしまったり・・・。
朝、家で補聴器をつけて、夜に家で外すようにすれば、紛失の危険性も低くなります。
5 あなたが「いつも」補聴器を使わない理由は?
もう一度最初に戻ってみましょう。
あなたが「いつも」補聴器をつけたくない、と思うのはどうしてでしょうか。
もし、補聴器を使っている事を人に知られたくない、という思いがあるのなら、これは誰もが思う当たり前の感情です。
ですが、最近の補聴器は小さくて目立たないものも多くあります。
それに、多くの人は「他人の耳」をじっくり観察したりしないものです。
こちらから「実はいま補聴器をつけているんです」と言わない限り、気づかれないでしょう。
もし、「補聴器をつけると耳が痛い」「補聴器が耳から落ちそうになる」などの理由なのでしたら、すぐに補聴器販売店に相談してみてください。
耳せんを変えたり形を整えたりするなどの解決方法を提示してくれるでしょう。
あなたの理由は何でしょうか?
それが解決できれば、補聴器を長時間使うことができるのなら、ぜひ解決策を見つけてください。
補聴器のお店が相談に乗ってくれるはずです。
まとめ
補聴器は「必要な時にだけ使う」のではなく、「日常的に使う」ことがおすすめです。
・補聴器を使いこなすには「慣れ」が必要。長い時間補聴器をつけていた方が、早く慣れることができる。
・聞くべき必要性がある音は、いつでもどこでも発生する可能性があるが、補聴器をしていないと聞き逃してしまう。
・常に補聴器をつけることには、様々なメリットがある。
補聴器を使いこなすことができれば、補聴器はあなたの相棒とも言うべき存在になります。
ぜひ普段からなるべく長い時間補聴器を使ってくださいね。