
皆さんは「骨伝導●●」、「骨導式●●」という言葉を聞いたことはないでしょうか?近年では「耳を塞がないイヤフォン」として、骨伝導イヤフォンが多くのメディアで取り上げられており、一般的な言葉として認知され始めています。
実は補聴器の世界では、古くから「骨伝導補聴器」が存在しています。最近は「骨伝導イヤフォン」の影響か、骨伝導補聴器に興味を持つ方が増えているようです。ですが、骨伝導補聴器の仕組みや効果を正しく理解していないと、ほとんど効果がない、使えないものとなってしまいます。
この記事では骨伝導補聴器の仕組みや種類、向いている方、メリット・デメリットなどを詳しくご紹介します。
もし、あなたが骨伝導補聴器を検討されているであれば是非参考にしてください。
目次
1 骨伝導とは 気導音と骨導音について
「音」とは空気の振動です。例えば太鼓を叩くと、太鼓に張られた皮が振動し、周囲の空気を震わせて音波を作り出します。この音波が私たちの耳に届き、脳で感知すると「音」として認識されます。
私たちは「音」を何気なく聞いていますが、実は2つの音の聞き方があります。それが「気導音」と「骨導音」です。
1-1 気導音とは
気導音とは、耳介(耳たぶ)で集音した空気の振動が外耳、中耳、内耳、聴神経、脳の順に伝わる音のことを言います。一般的に我々が生活していて聞いている音のほとんどは、この気導音といっても良いでしょう。
私たちの耳の器官はそれぞれに役割があって、「外耳」「中耳」では空気の振動(音)を増幅してくれます。増幅された振動が「内耳」に伝わり電気信号となり、「聴神経」「脳」に伝わっていきます。
1-2 骨導音とは
気導音に対して骨導音は、頭蓋骨(側頭骨)に振動を与えて「外耳」「中耳」を飛ばして直接内耳を刺激して聞く音のことを言います。耳あなを通してくるのでなく、頭蓋骨の震えを耳の奥が感じ取って、音として変換しているのです。
例えば、耳を塞いだ状態で声を出しても自分の声は聞こえます。これは骨導で聞いているためです。
気導音と骨導音の伝わり方
通常、自分の声を聴く時はこの気導音と骨導音をミックスして聞いています。録音した自分の声に違和感があるのは、骨導音がない「気導音だけの自分の声」を聞いているからです。
2 骨伝導補聴器とは
2-1 骨伝導補聴器とは
骨伝導補聴器とは、前述した「骨導音」の仕組みを利用した補聴器のことを言います。「骨導補聴器」というものもあります。
一般的な骨伝導補聴器の仕組みは、耳周辺の骨部分に振動子(レシーバー)を当てて、直接頭蓋骨(側頭骨)に振動を与えます。この振動が直接内耳に届き、音を感知することができます。
2-2 骨伝導補聴器の種類
メガネ型
メガネのツルの部分に振動子がついています。振動子を耳たぶの下部の骨に当てて音を伝えます。
【代表的な製品】
コルチトーン社 TTH1105
メガネ型の特徴
- メガネと一体型なので、補聴器を使用しているように見えない、目立たない
- 両耳での使用が可能
- メガネ屋さんでメガネのツル部分の振動子位置の調整する必要がある
- 補聴器使用時は、必ずメガネをかける必要がある
- 取り扱っているメーカーが少ない
カチューシャ型
お子様が利用しやすいタイプです。カチューシャの先端に振動子がついていて、両耳でも利用できます。
【代表的な製品】
スターキー社 ミニデジタル骨伝導補聴器
カチューシャ型の特徴
- しっかり固定されるため動いてもずれにくい
- お子様でも使用しやすい
- カチューシャ形状のため、補聴器を使用しているように見えない、目立たない
- カチューシャ自体の本体サイズは大きい
- 取り扱っているメーカーが少ない
埋め込み型
頭の中に骨伝導式補聴器を埋め込む方法です。
埋め込み型補聴器には複数種類があり、手術が必要となります。例えば骨固定型補聴器では、耳の後ろ側の骨にチタン製のねじを埋め込み、その上から音を振動に変換する機器を接続します。
*参考:慶応義塾大学病院
埋め込み型の特徴
- 補聴器を装用していることがわかりにくい
- 音を減衰なく効率よく伝えることができる
- 振動子を肌に密着させることがなく、痛みを起こす心配がない
- 手術が必要となる
軟骨伝導型
軟骨伝導補聴器は、耳の軟骨部に振動を与えて聞こえ方を補う、最近になって発売された補聴器です。小型耳かけ式補聴器の先端に振動子をつけており、目立ちにくい形状です。
【代表的な製品】
リオネット社 HB-A2CC
軟骨伝導型の特徴
- 小型耳かけ式補聴器のため目立ちにくい
- 従来の骨伝導補聴器に比べ体の負担が少ない
- 取り扱いが一部の医療機関に限定される
3 骨伝導補聴器が向いている人、向いていない人
実は、骨伝導補聴器は誰にでも効果があるものではありません。あなたの難聴のタイプをしっかり把握したうえで、骨伝導補聴器を使うか、普通の補聴器を使うべきかをはんだんしてください。
3-1 骨伝導補聴器が向いている人
伝音難聴の方
骨伝導補聴器が向いている人は「伝音難聴」の人です。
伝音難聴とは、耳の構造のうち、「外耳から中耳にかけての伝音器の障害」によって発生する難聴です。
下記は伝音難聴の人のオージオグラム(聴力検査の結果)の例です。
コの字型のマークは伝音聴力を表しており、〇のマークは気導聴力を表しています。
この場合、伝音聴力は正常の範囲にありますが、気導聴力は軽度~中等度の難聴であることを示しています。
この場合は、内耳より奥には問題なく、外耳中耳に障害がある伝音難聴であると推測されます。
オージオグラム(聴力検査の結果)の見方は下記で詳しく知ることができます。
聴力検査結果の見方がわかる!「標準純音聴力検査」を詳しく解説
伝音難聴の人は、外耳・中耳に障害があって音を上手く伝えられませんが、内耳以降の音を感じる部分には問題がありません。
そのため、問題がある外耳中耳を飛ばして、直接内耳に働きかける骨伝導補聴器が有効になるのです。
例えば、外耳が小さいもしくは欠けている、生まれつき耳の形が不完全で小さい先天性疾患の人、生まれつき「耳あな」がない人、鼓膜から内耳へと音を伝える「耳小骨」の動きが鈍くなってしまった人、などに向いています。
伝音難聴の例
- 外耳道閉鎖症
- 慢性中耳炎
- 鼓膜穿孔(鼓膜に穴が空いている場合)
- 耳の形状異常
- 耳小骨離断
伝音難聴以外で骨伝導補聴器が向いている人
-
伝音難聴以外で向いている人
- 片耳難聴(片耳聾)の方 (聞こえない側から反対側の内耳に音を骨導で伝える。)
- アレルギーや感染症で、耳に装着する補聴器が使用できない方
*骨伝導補聴器は試す前に、耳鼻咽喉科医や聴覚専門家の評価をうけてください。
3-2 骨伝導補聴器が向いていない人
感音難聴(加齢性難聴、突発性難聴など)
歳をとってから発生する難聴を加齢性難聴と言い、これは感音難聴の代表です。
また、ある日突然耳が聞こえなくなる突発性難聴も同様で、難聴者の大半はこの感音難聴です。残念ですが、骨伝導補聴器は感音難聴には効果が薄いとされています。つまり、歳をとってから難聴になった人には骨伝導補聴器は向きません。
感音難聴は、外耳中耳に障害はなく、内耳以降に障害があります。そのため、外耳中耳を飛ばして内耳に直接働きかけても、その内耳が音を感じることができないので、意味がなくなってしまうのです。
感音難聴の人には骨伝導補聴器ではなく、一般の補聴器がおすすめです。
一般の補聴器は感音難聴を前提に作られているからです。またこちらの方が多機能であり、形状のレパートリーが多くあります。最近では骨伝導イヤフォンや集音器の広告が多く、目にすることが増えています。そのためでしょうか、一般の補聴器に満足できない場合、「骨伝導補聴器の方が聞こえるのでは」というイメージを持つ人もいるようです。
ですが、ご自身が感音難聴の場合は、骨伝導補聴器は慎重に考えた方が良いでしょう。
伝音難聴や感音難聴については下記で詳しく知ることができます。
難聴の種類別特徴や症状。原因・治療・対策までわかりやすく解説4 骨伝導補聴器のメリット・デメリット
4-1 骨伝導補聴器のメリット
メリット 詳細説明 外耳や中耳の問題を回避できる 外耳中耳を飛ばして直接内耳に音を伝えるため、外耳道や中耳の障害がある人でも使用ができる。 中耳炎や外耳道の炎症リスクを軽減 耳に直接装着しないため、通常の補聴器で発生しやすい炎症や湿疹を回避できる。 目立たない メガネ型、カチューシャ型など生活必需品と一体型になっていて補聴器を利用しているように見えない。 取り外しが簡単 メガネ型、カチューシャ型、軟骨伝導型などは取り外し可能でメンテナンスがしやすい。 装着時の快適性 耳を塞がないため、長時間使用しても耳が疲れにくい。
4-2 骨伝導補聴器のデメリット
デメリット | 詳細説明 |
---|---|
性能が制限されることがある | 骨伝導は選択できる器種が少なく、搭載される性能に制限があります。 |
内耳や聴神経の問題には対応できない | 感音難聴や聴神経の障害には効果が少ない。 |
装着が目立つ場合がある | メガネ型やカチューシャ型は生活費需品ではありますが、その本体自体は大きいため装着自体は目立ちます。 |
長時間使用した際の不快感 | 振動子を耳の骨導部にあてる場合、長時間使用していると圧迫感を感じたり、皮膚が炎症する可能性があります。 |
費用が高い場合がある | 器種の選択肢が少なく、通常の補聴器に比べてコストが高くなる可能性があります。 |
5 骨伝導のその他の製品
5-1 骨伝導イヤフォン
骨伝導イヤフォンとは、上記でご紹介した骨伝導の仕組みを利用して開発されたイヤフォンのことをいいます。主に音楽を聞いたり、スマートフォンからの音源を聞いたりします。
従来の耳に入れるイヤフォンとは違い、下記のメリットがあるため最近注目されています。
骨伝導イヤフォンの特徴
- 耳の穴を塞がないため、周囲の音を聞き取ることができる
- 耳への圧迫感が少ないため、長時間使用しても疲れにくい
- 鼓膜を介さずに音を伝えるため、外耳、中耳に障害のある方でも使用できる
5-2 骨伝導集音器
最近特に通販でみることが多いのが骨伝導「集音器」です。骨伝導「補聴器」と混同しやすいので気を付けてください。
骨伝導「補聴器」は通販では購入できません。そのため通販で販売されているのは難聴者向けの補聴器ではなく、一般家電に分類される集音器です。
補聴器と集音器の違いは下記で詳しく知ることができます。
補聴器と集音器の違いとは おすすめの人・購入時のポイントも紹介
6 骨伝導補聴器のQ&A
Q 今使っている補聴器が耳から外れてきてしまう。骨伝導補聴器や集音器の方が良い?
耳のあなが小さいなどの理由で補聴器が耳から外れてしまう方は、骨伝導補聴器の方が良い可能性があります。ですが、上記でご説明した通り、ご自身が感音性難聴の場合は、骨伝導補聴器は機能的に制限が多いためおすすめできません。
補聴器が外れやすい場合は、購入された補聴器販売店に相談してください。補聴器の形状や耳せんを見直すことで改善される場合があります。
Q 骨伝導補聴器と集音器の違いは?
骨伝導に限りませんが、補聴器は難聴者の聞こえを補助する「医療機器」、集音器は一般的な音の聞き取りを補助する「家電製品」となります。
前述した通り、骨伝導補聴器は医療機関や補聴器販売店で購入します。通販で販売されている製品は骨伝導集音器となります。
聞こえの問題を解決したい場合は、補聴器を選ぶことをおすすめします。
Q 突発性難聴でも骨伝導補聴器が使える?
突発性難聴は感音難聴に分類されます。そのため骨伝導補聴器は基本的に向いていません。補聴器を検討されるのでしたら一般の補聴器をおすすめします。
*諸条件により骨伝導補聴器がおすすめされることもあります。耳鼻咽喉医師や補聴器専門家にアドバイスを基に検討してください。
Q 高齢者は骨伝導補聴器の方が向いている?
一概には言えませんが、高齢者の方の難聴は、加齢性難聴であることが多いです。前述した通り加齢性難聴は「感音難聴」ですので、内耳以降に難聴の原因が存在します。
そのため骨伝導補聴器より一般的な補聴器の方が向いていると言えます。
Q 耳がほとんど聞こえない人でも骨伝導補聴器なら聞こえる?
耳がほとんど聞こえない場合、内耳以降の障害を持つ可能性が高く、骨伝導補聴器の方が効果があるとは言えません。
また骨伝導補聴器は基本的に出力に限界があり、高度重度の難聴者向けではありません。一般的な補聴器や人工内耳を検討した方が良いでしょう。