話している声は聞こえるけど、何を話しているか言葉が聞き取れない。テレビの音量を大きくしても話している内容がわからない。ご自身やご家族で思い当たることはありませんか?
その理由は「言葉を聞き取る力」にあります。その力を知る目安となるのが「語音明瞭度」です。
聴覚は、単に音を聞くということだけではなく、人と人のコミュニケーションに欠かすことができないものです。語音明瞭度について理解し、自分の話声を聞き取れる耳と脳の力を知り、適切な対策を取ることがとても大切です。
この記事では、語音明瞭度低下のサインやその影響、また検査などについて説明します。
目次
1 語音明瞭度は「特定の語音を聞き取れるか」の指標
語音明瞭度は語音弁別能と呼ぶこともあり、特定の語音をどれだけ正しく聞き取れるかを示す指標です。つまり、何を言っているか、話の内容を聞くために必要な聴力がどれだけあるかを表しています。
私たちの耳に入ってくる音にはたくさんの種類があり、耳から脳に電気信号として伝えられたそれらの音を、これまで経験などから「車のクラクション」「虫の鳴き声」「人の話し声」のように認識しています。
さらに「人の話し声」からその内容を理解するためには、音を「語音」「言葉」として正しく聞き取り、認識することができないと、意味をもたないただの音の連なりとなってしまうのです。
1-1 語音明瞭度は補聴器の装用効果の予測や適合状態をチェックにも使われる
語音明瞭度は検査で測定し、%で表されます。正常な聴力の場合は40dBという音圧(音の大きさ)で90%~100%を示します。そして、その人の持つ最も高い語音明瞭度を最高語音明瞭度と言います。最高語音明瞭度については6で詳しく説明しています。
また、補聴器装用の効果を予測するためには、この最高語音明瞭度がどの程度かがとても重要になります。難聴の人でも最高語音明瞭度が一定以上であれば、補聴器で音を大きくしてあげることで、聞き取りが向上する可能性が高くなります。
一方で最高語音明瞭度は音を大きくしても改善しないため、補聴器の効果は限定的になります。補聴器装用効果の目安は以下のとおりです。
語音明瞭度が80%以上の場合:補聴器の装用効果が期待できる
聴力が低下していても最大語音明瞭度が80~100%であれば、補聴器の装用効果が期待できます。
もちろん一人ひとり聴力が違うので個人差はありますが、入ってくる音を増幅して装用者の最高語音明瞭度が出るところまで音を大きくすることで、会話の聞き取りに対して効果が期待できるでしょう。
以前の聞こえと同じになるところまでいかなくても、より近づく可能性があるということです。
ただし、あくまでも予測であり、補聴器装用者の生活環境や主観的な評価など個人によって違うので、実際に補聴器を着けて測定し、最大限の効果を発揮できるよう調整を重ねていく必要があります。
語音明瞭度が80%未満の場合:補聴器の装用効果に限界がある
最高語音明瞭度が80%未満の場合は、残念ながら補聴器を使っても以前のように聞き取るのは難しくなります。
最高語音明瞭度は、その人が持っている最高値なので、補聴器を装用して音量を上げてもこの値が改善される訳ではないからです。
補聴器を装用しても会話が期待したとおりに聞こえずにがっかりするかもしれませんが、これを理解した上で期待値を設定し、「音が聞こえる」生活を取り戻すための補聴器の使い方を考えてはいかがでしょう。
1-2 聴力低下との語音明瞭度の関係
一般に、難聴と語音明瞭度には相関関係が見られると言われています。
特に加齢による感音性難聴の場合は高い音から聴力が低下する傾向があり、その結果高い音の領域に分布する子音が徐々に聞こえづらくなっていきます。この聞こえづらい状態が長く続くと語音明瞭度が低下し、聞き間違いが多くなったり、話の内容がわからなくなってしまうのです。
加齢による難聴は誰にでも起こりえますが、自覚した場合はできるだけ語音明瞭度を維持するようにしたいですね。
2 語音明瞭度低下の影響
では、語音明瞭度が低下はどのような影響を及ぼすのかみていきましょう。
- 会話聞き取りの質の低下
- コミュニケーションが億劫になる
- リカバリーの難しさ
2-1 会話聞き取りの質の低下とコミュニケーション
語音の正しい聞き取りができないと、話の内容をきちんと理解することが難しくなり、日々の生活にも影響が出てきます。
聞き取りの問題からくる日常生活でのコミュニケーションの難しさは、本人にも周囲の人にもストレスを与えます。会話が億劫になる方も多く、ひいては孤独を感じて鬱状態に陥ったり、認知症の要因にもなったりし得るという研究報告もあります。
2-2 語音明瞭度は一度低下すると元に戻すのは非常に困難
一度低下してしまった語音明瞭度を上げるのは非常に難しく、ほぼ無理と言われています。
そのため、「語音」の聞き取りを維持することはとても重要です。
3 語音明瞭度が低下しているサイン
もし、あなた自身や身近な方に以下のようなことが思い当ったら、語音明瞭度が低下しているかもしれません。気になるようであれば、早目に耳鼻科などで聴力とともに語音明瞭度を検査してもらってはいかがでしょうか。
テレビの音量をかなり上げても、何を話しているかがわからない
テレビを見ていて、何を言っているのかわからないから音量を上げていませんか?
もちろん、周囲の音がうるさかったり、音量が小さすぎる場合もあるかもしれませんが、その場合はある程度音量を上げれば聞き取れるはずです。
でも、音量を上げても全部理解できない時は、要注意。語音明瞭度が低下しているのかもしれません。
会話をしていて相手が何を言っているのかわからない時がある
目の前で話している相手の話がよくわからない。話声がしていることはわかるけれど、横を向かれると言葉がちゃんと聞き取れない。
加齢による感音性難聴が進行するとともに語音明瞭度が低下し、口元を見ないと何を言っているか理解できない、といった現象が起こり
がちです。
言葉の聞き間違いが多い
病院で名前を呼ばれて気付かない、何となく話の辻褄が合わないなど、聞き間違いが多く、人から指摘されることも増えてきたら要注意です。
聞き間違いの例:
さとう(佐藤)さん ⇒ かとう(加藤)さん
ちょうじょ(長女)⇒ しょうじょ(少女)
ばんち(番地)⇒ だんち(団地)
4 語音明瞭度検査
4-1 語音明瞭度検査を受けられる場所
語音明瞭度検査は、耳鼻咽喉科のある病院やクリニックなどで受けることができます。行きつけの病院やお近くのクリニックなどに問い合わせて検査をしてもらえるかを確認してみましょう。
また、補聴器の効果を事前に把握するためにも必要なので、聴覚の専門家や認定補聴器技能者のいる補聴器専門店でも調べることができます。
4-2 語音明瞭度検査の方法
では、検査の方法について簡単にご説明します。
検査では、特定の音の大きさ(dB)でどれだけの語音が正しく聞き取れるかを語表を使って測定します。例えば、正常な聴力の場合、テレビの音が小さくて何を言っているのか聞き取れなくても、音量を上げていくと聞き取れるレベルになることがありますよね。イメージとしてはこれに近くいかもしれません。
どこまで音量を上げると正しく聞き取れるか確認していきます。
- 語音をどれだけ正確に聞き取れるかを防音室で測定します。
- 一定の速度で語音をヘッドホンから流して聞こえたとおりに用紙に記載します。
- 一般的には、「ア」「キ」「ガ」等の20語の単音節リスト8表からなる語表を使って検査します。
- まずは、語音が十分に聞こえる大きさで一番目の表を測定します。
- 一番目の表の正答率が100%の場合は、音を10dB小さくして二番目の表を測定します。
- 複数の音の大きさで測定を行い、正しく聞き取れた割合を%で計算します。
4-3 検査の結果の例と読み方
上のグラフは、検査の結果の例を示したものです。
正常な聴力を表す曲線(黒の実線)は、黄色い○が示すように「40 dBの音で90~100%の語音明瞭度」となります。これが基準値です。
赤い線と青い線は、ある人の測定結果のサンプルです。
赤○で示された右耳の値は、70dBで35%、80dBで60%、90dbで80%の正解率です。
青×が示す左耳は、70dBで20%、80dBで50%、90dbで70%の正解率だとわかります。
5 最高語音明瞭度と音声理解度
検査の結果で最高の正答率を最高語音明瞭度(語音弁別能)といい、その人が持っている最高の明瞭度を表します。
4-3の例では、最高語音明瞭度は「右耳が80%、左耳が70%」となります。正常な聴力の場合、最大語音明瞭度は90~100%程度の結果となるので、この人は語音明瞭度が下がっていると言えます。
ただし、ある音圧(音の大きさ)レベルで80%以上の明瞭度があれば、音を大きくしてあげることで語音の聞き取りが向上し、言葉が理解できるようになる可能性が高いと判断できます。
この例であれば、耳に入る音を90dbまで上げてあげることで、かなり言葉の理解ができるようになると予想できるので、補聴器装用が役に立つかもしれません。
もし、語音明瞭度が40%以下になってしまうと、どんなに音を大きくしても、言葉を充分に十分に聞き取ることができないでしょう。
聴覚だけに頼るコミュニケーションは難しくなり、他の感覚の情報(例えば視覚情報)も併用していく必要が出てきます。
最高語音明瞭度と言葉の理解度の関係は、以下のような目安となります。
最高語音明瞭度 | コミュニケーションの理解度の目安 |
100%~80% | 聴覚のみで会話の理解が可能。 補聴器の効果が十分に見込まれる。 |
80%~60% | 日常会話であれば聴覚のみで理解が可能。 不慣れな話題は十分に注意して聞かなければ正確な理解は難しい。 |
60%~40% | 日常会話でもしばしば聞き間違える。 重要な会話は確認やメモの併用が必要となる。 |
40%~20% | 日常会話でも読話や筆談の併用の必要がある。 |
20%~0% | 聴覚のみの会話はほぼ不可能。 手話、読話、筆談などを併用してコミュニケーションを図る必要がある。 |
6 言葉の聞き取りづらさを感じたら早期受診
前章でも説明したとおり、一般に聴力と語音明瞭度の低下には相関関係があると言われています。個々で程度の差はありますが、一部の音が聞き取りづらくなり、会話内容の理解が難しくなっても、語音明瞭度が保たれていれば、補聴器や集音器などで音を増幅してあげることで解決できるかもしれません。
残念ながら、既に低下してしまった語音明瞭度を改善する方法は見つかっていません。ですから、語音明瞭度をできるだけ低下させないことが大切です。
そのためにも聞こえづらさを感じたら、できるだけ早めに耳鼻咽喉科を受診し、医師が補聴器が役立つと判断したら補聴器を使い始めましょう。ご自身は、まだ補聴器を使うのは早いと感じていても、難聴が軽度のうちから補聴器を装用することが有効な場合もあります。
補聴器を通して音声を聞き言葉の理解をできるだけ保つことで、語音明瞭度の低下を緩やかにできる可能性があるからです。
難聴は徐々に進行していくので、日常的に不自由を感じるまでには時間を要します。少しでも自覚がある場合は、早目に耳鼻咽喉科医もしくは専門家にアドバイスを求めるのが良いでしょう。
7 まとめ
語音明瞭度とは、言葉を聞き取る能力のことで、日常のコミュニケーションに影響します。そのため、語音明瞭度が低下すると、QOL(生活の質)が落ちてしまいます。
もし「言葉の聞き取りが悪くなった」と感じたら、放置せずに耳鼻科等で検査を受けてみることをおすすめします。
- 語音明瞭度とは言葉を聞き取る力の指標
- 聴力と語音明瞭度は相関関係がある
- 語音明瞭度で補聴器の装用効果の予測や適合状態をみることができる
- 最高語音明瞭度はその人の持つ最も高い言葉を理解する力で、音量を上げても変わらない
- 語音明瞭度は一度低下すると元に戻すのは難しい
- 語音明瞭度の低下は聞き間違いや会話の理解を困難にするため、QOL(生活の質)も落ちる
- 最高語音明瞭度によっては聴力だけに頼らず他のコミュニケーション手段の併用が必要
- 言葉の聞き取りに不安があったら、早目に耳鼻科等で検査してもらう