補聴器の「調整」とは 重要性・流れ・方法などを徹底解説

補聴器を使い始めると、お店の人から必ず「調整が大切ですよ」とか「補聴器をフィッティングしますね」という言葉を聞きます。

「調整」と「フィッティング」はどちらも同じことを指し、簡単にいうと「補聴器の音の設定を変更する」ことです。

 

補聴器を買った後にどうして「音の設定変更」が必要なのでしょうか?

お店の人はどうやって調整しているの?

 

補聴器を使う上で最重要な「調整」について、この記事で詳しく説明します。

 

1 補聴器の調整が重要な理由

補聴器は「購入後の調整が重要」であると言われています。

これは医療機器である補聴器の、集音器など他の聴力補助機器と比較して大きな違いとなる部分でもあります。

この章では、なぜ補聴器の調整が重要なのか、3つの理由をご紹介します。

 

理由1:人それぞれ聴力が違うから

人の聴力はみな同じわけではなく、また聴力が変化する年齢や変化の仕方も千差万別です。

聴力の変化には、遺伝的要素、生活習慣、職業、過去の病歴など、様々な要因が影響していると言われています。
これらが全く同じ人というのは、いませんよね。

ひとことで「聴力が衰えている」と言っても、その状態は人それぞれ。

補聴器は、一人ひとり全く違う状態の聴力に合わせて、細かく音を作りこむことができるのです。

例えば、鳥の鳴き声、電子音などの高い音が聞きづらい人が補聴器を装用する場合、補聴器は高い音を中心に増幅するよう調整されます。
元々聞こえている低い音が増幅されてしまうと、うるさくて装用していられなくなってしまいます。

逆に、低い音が聞こえづらい人の補聴器は、低い音を中心に大きくする必要があります。

そのため、補聴器を調整する前に必ず聴力測定を行い、その人の聴力を参考に補聴器の音質調整を行うのです。

 

 

理由2:人それぞれ生活環境が違うから

その人の聴力に合わせることはもちろん重要ですが、その人の生活環境に応じて補聴器を調整していくことも重要です。

例えば、静かな自宅で主に補聴器を使う人と、多くの声が飛び交う職場中心で使う人がいるとします。
仮に全く同じ聴力だとしても、補聴器の調整は変える必要があります

補聴器販売店では、事前にカウンセリングを行い、「どのような聞こえの課題があるのか」、「どのような場所で何を聞き取りたいのか」、「どのような生活環境なのか」などを聞き取ります。
ここで得られた情報を元に、その人の生活環境に合うように補聴器を調整していくのです。

 

理由3:補聴器には慣れが必要だから

年齢とともに聞こえづらくなる「加齢性難聴」の場合、長い年月をかけて徐々に聴力の低下が起こります。

長い間聞こえづらい状態に慣れてしまっていると、急に補聴器からの音を聞くと、うるさいと感じたり、びっくりしてしまいます。

朝方急にカーテンを開けると朝日がまぶしく感じると思いますが、同じようなイメージです。

補聴器の音に慣れるには時間がかかります
そのため、補聴器をつけ始めたときは、必要な音量の70%位の大きさに設定して装用を始めます。

そして、その人の補聴器の慣れ具合に応じて、徐々に音を大きくしていきます。
リハビリテーションのようなものですね。

装用する時間など様々な要素で、人によって慣れるスピードが異なるため、補聴器販売店ではこの点も見極めながら、装用者に伴走してくれるのです。

2 補聴器の調整を受ける前に必ず理解しておきたい2つのこと

補聴器の調整を受ける前に事前に知っておいていただきたい点があります。
それは、「若いころの聞こえ方が戻るわけではない」「言葉の聞き取り能力は人により違いがある」ことです。

これらを調整の前に理解しておくことで、補聴器に対する満足度が大きく変わってきます

 

若いころの聞こえ方が戻るわけではない

例えば年齢と共に聞こえづらくなる加齢性難聴の場合は、補聴器を適切に調整しても若いころと同じように聞こえるようになるわけではありません
それは下記のような理由で、補聴器のせいではないのです。

 

音を聞き取る細胞は再生しない

  • 加齢性難聴は、内耳の有毛細胞(音を聞き取る細胞)が損傷・消失することで起きます。
  • この細胞は、一度壊れると再生しません
  • 補聴器は音を増幅しますが、壊れた細胞自体が治るわけではないので、音を聞き取る力には限界があります。

脳の聴覚処理能力の低下

  • 年齢とともに、音を聞き分け理解する脳の機能も少しずつ衰えていきます。
  • 補聴器で音が入ってきても、その音が何を意味するのかを理解する力が弱くなっていきます。

 

雑音の中での聞き取りが難しい

  • 若いころは騒音の中でも人の声を拾う能力が優れていますが、この能力は加齢とともに低下します。
  • 多くの補聴器には雑音を抑制してくれる機能が搭載されていますが、それでも若いころのような快適さを完全に得ることは難しいことが多いです。

 

言葉の聞き取り能力は人により違いがある

「どれくらい言葉を聞き取る(理解する)ことができるか」という力を「語音明瞭度」と呼びます。
この語音明瞭度は人によって違い、これにより補聴器の効果に差が出ます。

加齢性難聴などで長い間聞き取りづらい状態でいることで、言葉の聞き取り能力が低下することがあります。
この能力は、残念ながら一度落ちてしまうと回復しません。

また、補聴器をつけても改善しません。
補聴器でいくら大きな音を耳に、そして脳に届けても、脳にそれを理解する力がかければ意味が無いのです。

例えば、聞き取り能力が「正常な場合に比べて70%」に落ちてしまっている人の場合、補聴器で適切な音を届けても、言葉の聞き取りが70%を超えることは難しいということになります。

すると、「補聴器で音は聞こえるけど、なんて言っているのか分からない」という事になるのです。

 

語音明瞭度は、補聴器装用する前に耳鼻咽喉科や補聴器販売店で測定してくれます。
この結果は補聴器装用効果に大きく影響しますので、必ず確認することをお勧めします。

現在の補聴器は非常に進歩しており、様々な環境でコミュニケーションを改善してくれます。
ですが、装用する人の体の機能を回復させることはできません。

ご自身の聴力や語音明瞭度を事前に把握し、補聴器に期待することを明確にしておくことが重要なのです。

語音明瞭度については下記で詳しく知ることができます。

語音明瞭度とは「言葉を聞き取る力」の指標:低下のサインと影響とは?

3 補聴器の調整の種類と方法

補聴器販売店での補聴器調整は、実際にどのようなことを行っているのでしょうか?

代表的な4つの方法をご紹介します。

 

利得調整

利得調整とは、マイクが拾った音の大きさ別の調整になります。
補聴器のマイクがとらえた音を、どのくらい大きくしてユーザーの耳に届けるか、を調節するものです。

一見シンプルそうですが、実は単純ではありません。
補聴器のマイクから入ってきた音を一律に大きくするのではなく、マイクが拾った音が「小さい」「普通」「大きい」かによって、それぞれどれくらい増幅するのか別々に調整するのです。

難聴の場合、「小さい」音は聞き取りづらいため、大きく増幅します。補聴器がとらえた小さな音は、ユーザーの耳には大きく届けるのです。

逆に「大きい」音は、そもそも補聴器をつけなくても聞こえるので、補聴器はあまり増幅しません。

補聴器のマイクで拾う音の大きさによって増幅量を変化させることを、専門用語では「ノンリニア増幅」などと呼びます。

 

音質調整

音質調整とは、一般的に音の高さ別の調整のことを言います。
音の高さごとにどのくらい大きくするかを調整します。

上記に記載した通り、補聴器を装用する人の聴力は様々なので、その人の「音の高さごとの聞こえづらさ」に合わせます。

例えば、高い音が響いて聞こえたり割れて聞こえたりする場合は、高い音の増幅度合いを下げたり、低い音をより大きくしたりすることで改善する可能性があります。

最大出力制限

大きな音への許容量も人によって違いがあります。そのため、補聴器で出力する一番大きな音の大きさをその人に合わせて調整する必要があります。

この調整を行わないと、うるさくて補聴器を装用できなかったり、装用していると頭が痛くなったり、かえって聴力を低下させてしまったりします。

補聴器の調整の前に行う聴力測定の中で、その人の大きな音に対する許容量を測定します。

 

機能調整

補聴器の性能にもよりますが、補聴器には様々な機能が搭載されており、音の増幅だけではなく、その機能によって複雑に調整することができます。
主な機能は、「雑音抑制」「ハウリング抑制」「指向性」「突発音抑制」などです。

機能調整とは、このような機能を働かせるのか、どれくらい効かせるのか調整することを言います。

 

4 補聴器の調整の流れ

①カウンセリングと聴力測定・語音明瞭度測定など

補聴器販売店では、補聴器調整の参考とするために、事前にカウンセリング聴力測定語音明瞭度測定などを実施します。

カウンセリング

  • 日常生活での聞こえに関する困りごとの聞き取り
  • 補聴器をどのような環境で使用するかの確認(職場、家庭、趣味活動など)
  • 本人・家族の補聴器に対する希望や期待の確認

 

聴力測定&語音明瞭度測定

  • 気導聴力測定
  • 骨導聴力測定
  • 不快閾値の測定
  • 語音明瞭度測定

これらの専門的な測定を専用の器具を用いて行います。

聴力測定(検査)については、下記の記事で詳しくご説明しています。

聴力検査結果の見方がわかる!「標準純音聴力検査」を詳しく解説

②初期フィッティング(調整)

①で行った測定の様々なデータを組み合わせて、補聴器の調整を行います。この一番最初の調整を「初期フィッティング」と呼びます。
初期フィッティングは、理論上は適切な値になるように調整しますが、装用する人によって感じ方や評価はそれぞれです。
まずはこの状態で室内での言葉の聞き取り方などを評価し、そこから微調整を行っていきます。
また、初めて補聴器を装用する場合は、最初は音を小さめにしておくこともあります。

 

③装用開始後の微調整

補聴器装用は1回の調整では完結しません。1か月~3か月の間に、3回~10回程度の調整を行います。
この期間は、実際に日常生活でどのような音が聞こえて、もっと聞きたい音は何なのかなどを相談しながら、補聴器の微調整を繰り返し行います。
初めて補聴器を装用する人は、この間に少しずつ音を大きくしていきます。

5 補聴器の調整にかかる費用と時間

調整にかかる費用

補聴器を購入したお店では、基本的に無償で調整してもらえます。
これは、補聴器購入代金に調整費用が含まれていると考えているためです。

販売店によっては、無償で調整できる期間が決まっていたり、そのお店で購入していない補聴器の場合は調整料がかかることがあります。
事前に確認をするようにしましょう。

 

調整にかかる時間

補聴器販売店によりますが、初回の調整には1時間~1時間30分ほどかかるのが一般的です。
2回目以降の調整は、30分ほど見ておくと良いでしょう。

6 補聴器の調整が適切か確認する方法

自分が使っている補聴器の設定が、今の自分の聞こえ方に適切なのかどうかを、数字で測る方法があります。

2種類あり、どちらも目の前1mの所に置かれたスピーカーからの音を聞きます。

装用閾値測定

補聴器を装用した状態と、装用していない状態で、どのくらい小さな音が聞こえるかを測定します。

この測定は、補聴器を装用することでどのくらい音が聞こえるようになったかを客観的に確認することができるので、適切な調整が行われているのかを確認する重要な指標となります。

下の図では、白い△は補聴器をつけていない状態の結果で、黒い▲は補聴器をつけている状態の結果を示しています。黒い▲が白い△の上にあるのが分かります。
つまり、補聴器をつけている方が小さい音が聞こえている、ということになります。
また、左側の低い音から、右側の高い音まで、まんべんなく小さな音で聞こえるようになっていることが分かります。

補聴器装用時の語音明瞭度測定

補聴器を装用した状態で語音明瞭度測定を行います。スピーカーから聞こえる単音節(あ、か、に、等の音)を答えます。
この測定で、音を正確にとらえることができるかを確認します。

すでにご説明したとおり、この語音明瞭度は補聴器をつけても大きく向上しないのが一般的です。
そのためこの測定では、「補聴器をつけていない時と、補聴器をつけている時で、語音明瞭度が同程度になっているか」を確認します。
その人が本来持っている言葉の聞き取りの力が、補聴器装用時に発揮できているのかを確認するのです。

もし補聴器をつけることで語音明瞭度が下がっているのならば、調整を見直す必要があります。

下の例では、白い△が補聴器をつけていない時の語音明瞭度、黒い▲がつけている時の語音明瞭度です。
補聴器を装用している時の語音明瞭度の結果が、補聴器を装用していない時の結果と同等に出ています。また小さな音で同等の結果が出ており、適切な調整ができていると言えます。

 

装用閾値測定と補聴器装用時の語音明瞭度測定を行うには、防音室と、校正されたスピーカーが必要になります。
この設備を持っていない補聴器販売店もありますが、「認定補聴器販売店」には必ずあります。

認定補聴器販売店で補聴器を購入することで、その後の補聴器調整も安心して受けることができると言えます。

装用閾値測定や、補聴器装用時の語音明瞭度測定を行うスピーカー

 

認定補聴器販売店については、こちらの記事で詳しく解説しています。

なぜ認定補聴器技能者から補聴器を購入した方が良いのか

7 まとめ

補聴器の調整が重要な理由
  • 人それぞれ聴力が違うから
  • 人それぞれ生活環境が違うから
  • 補聴器には慣れが必要だから
補聴器の調整を受ける前に理解しておきたいこと
  • 若いころの聞こえ方が戻るわけではない
  • 言葉の聞き取り能力は人により違いがある
補聴器の調整の種類と方法
  • 利得調整
  • 音質調整
  • 最大出力制限
  • 機能調整
補聴器の調整が適切か確認する方法
  • 装用閾値測定
  • 補聴器装用時の語音明瞭度測定